旅宿 杜牧
153 杜牧 旅宿 旅館無良伴凝情自悄然寒燈思舊事斷雁警愁眠遠夢歸侵曉家書到隔年滄江好煙月門繋釣魚船
40字。 5で割り切れて商は8。
8行なので多分五言律詩だろう。
旅館無良伴 旅館・無良伴
凝情自悄然 凝情・自悄然
寒燈思舊事 寒燈・思舊事
斷雁警愁眠 斷雁・警愁眠
遠夢歸侵曉 遠夢歸・侵曉
家書到隔年 家書到・隔年
滄江好煙月 滄江・好煙月
門繋釣魚船 門繋・釣魚船
旅館 良伴無く
凝情 自ら悄然
寒燈 舊事を思い
斷雁 愁眠を警ます
遠夢歸って 曉を侵し
家書到るに 年を隔つ
滄江 煙月好し
門に繋ぐ 釣魚の船
最期の二句で思いを籠めて締めくくるかたち。
2.3.4.5の4句で、寒灯を見、雁声を聞き、遠い望郷の夢ははかなく、家からの手紙は思うに任せないというわが身を描く。
良伴 : 気さくな伴(つれ)
凝情 : 鬱屈たる思い
悄然 : 憂え悲しむ状態で
寒燈 : 旅館のもの寂しい燈し。寒さだけでなく「寒山」の類、人気の無さを暗示。
断雁 : 断は「と切れた」の意味で伴侶とはぐれた雁。眠りを警(さ)ますのだから雁声。
警 : 警は驚に同じ。愁眠を驚かす。目を覚まされるの意。
隔年 : 年があらたになってやっと、年を越えて
滄江 : 滄々(あおあお)している江、水の青さを滄という
目加田誠氏の訳がとても気に入っているので引用したい。
旅館に泊まって伴(つれ)も無く
心はむすぼれて愁いにしずむ
寒々した燈火に過ぎし日を思い
群れを離れた雁(かりがね)の鳴く声に
いねがての眠りをさます
ふるさとを夢みつつ早くも暁
家びとのたよりはおそく
年を越えてわずかに到る滄茫たる大江の
もやにかすむ月の好(よ)さよ
門辺(かどべ)につなぐ漁り舟一つ 「目加田誠 訳」
【解釈】
永い孤独な旅の途上なのである
投宿したとて宿に気さくに話し合える友もいない
旅愁はつのるばかりだが為す術もない
寒々とした燈火のともる暮れ方思うのは過ぎし日々のこと
聞こえてくる離れ雁の仲間を呼ぶ声が浅い眠りの枕辺にとどく
遠い故郷の夢を見ていたのだが覚めてみればはや暁に近い
家人のたよりもおくれがちな遠さが身に染みる
そんな中でも こころを慰めてくれるのは眺めやる景色
もやを通して観る月のまどかさ
水辺の門のあたりに繋いである漁り舟の佇まい
一幅の画を見ているような情景が浮かんでくる詩である。