新春 真山民


余凍:余寒に同じ。
初晴:新春の晴れた日。
煙:かすみ。けむりではない。
焼:野焼きの痕か。
東風:春風。
衡門:門柱に横木を渡しただけの粗末な門。隠者の家の門。

真山民:南宋の詩人。経歴は詳しくは知られない。

余凍 雪 わずかに乾き
初晴 日 にわかに喧(あたた)かなり。

寒さはまだ残っているが 雪は少なく乾いた地が見え始め
新春は晴れて 日差しは急にあたたかさを感じさせている。

人心 歳月 新たなり
春意 乾坤 旧きにあり。

人の心は歳月とともに 新しくなり
春の兆しが 悠久の天地に現れている。

煙(かすみ)は碧(みどり)にして 柳は色を回(かえ)し
焼(しょう)は青くして 草は魂を返す。

春霞が柳の樹をつつみ 柳に若葉がふいて色づく
野焼きの痕にも草が萌え出て青さがいきいきと戻っている。

東風 厚薄無く
例に随いて衡門に到る

東風(はるかぜ)は厚薄なく
例を随(まも)りて衡門にも到る。


新春を詩に詠むのは予祝の意味合いもあって
それ自体が新春の習慣の一部であった。
書き初めのようなものだ。
しかし、南宋末を生きたこの詩人は
隠者の風情をもって世相を描いた。

対句になっている各聯に対して最後の二句は
二句でひとつの言表になっていて

春風は人の世の険しさとは違って情に厚薄なく訪れる
約束通り通例を守って粗末な門(貧しい家)にもやってきた、と詠う。

東風無厚薄 随例到衡門

今年の年頭に当たって掲げるに相応しい詩聯だろう。

東風は厚薄無かれ 例に随いて衡門にも到れ

被災された全てのひとびとに漏れるところなく
春風の到らんことを。