雲母屏風。
雲屏。雲母(きらら)で作られた屏風なのか
雲母片をまき散らしたきらめく屏風なのか

燭影。
影をどう解するか。燭影=燭光
あるいは蝋燭の光がつくりだす色濃い影か。
別に雲母を透過してくる蝋燭の輝きという解釈も。

長河。
銀河が夜空に長大な流れとして架かる姿を言う。

暁星。
明けの明星とも夜明けをむかえた星とも解される。
文脈的には夜明けの空に消え残っている星を指しているだろう。

嫦娥霊薬を偸む。
太陽を射た羿の妻であった嫦娥は夫が西王母にもらった不死の仙薬を偸み飲んで月へ昇ったという。


碧海。
紺碧の海。青海原。イメージとしては青天、青空とでひとつの世界をつくっている。




雲母を蒔いてきらめきを与えられている
凝った屏風のくっきりしていた陰は
蝋燭の輝きによるものだが時がたち…
夜の空にかかる銀河も西に傾き落ちんばかり
消え残る星が見える空はもう明るんでいる
眠れない夜がまた明けたのだ
嫦娥はきっと悔いているだろう
霊薬を偸み飲んだことを
広いばかりの紺碧の海
果てしなく続く空の青さに浮かぶ月に居て
独りで過ごす夜という夜を想って


川合康三氏はこの詩を眠られぬ夜を明かした羿が
同じように孤独な夜を過ごす他ない妻の嫦娥を想う姿を描くと解釈している。
面白い解釈だと思う。
単純に閨怨詩の一種として解するのでは面白くないのは確かだ。


ただこの詩が
時間の経過を表現しながらそのことで
経過するものの背後に碧海と青天と月の永遠性があることを示唆する
表現の技巧があることを忘れないようにしたい。


透明感のある美しい詩句が李商隠という男を語っているように思う。