270 逢入京使  岑參



故園東望路漫漫
雙袖龍鐘淚不乾
馬上相逢無紙筆
憑君傳語報平安


入京する使に逢いて  岑參
故園 東に望めば路漫漫
雙袖の龍鐘として 淚(なんだ)乾かず
馬上 相い逢うも紙筆無く
君に憑()って傳語して平安を報ぜしむ


故園は故郷、故里のこと。
漫々は果てしなく遠くひろいさま。
故郷も都も東に望む道に全てははるばるとして遠い。

龍鐘は難しい言葉だがここでは涙が流れる様子を言う。
しとどに、とめどなく、等々か。

しきりに流れる涙で両袖とも乾く間もない。

(自分と逆に西域から京へ向かう官使に出会ったが)

馬上のこととてとっさには紙筆もない、(手紙を託せない)

仕方なく貴方にたより言伝てに自分の無事を報せてもらうことにしたい。

(憑る、報(しら)せる、どちらも注意したい言葉遣いだ。

故郷ははるかと東を望む道の上
双つの袖はしっとりと涙で潤い乾かないまま
馬上に出会いし二人ゆえ託する信書に紙筆も無く
無事を報せる言葉だけ どうか伝えてくだされや

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